Column

『目に見えない成長』

ある保育園での一場面です。どうやら2歳児のようです。皆さんはこの対応どのように感じますか?

①   友達とおもちゃをめぐって、ちょっとしたけんかが起こりました。

  散歩に行く前、車を使って遊んでいたH君。
  それを散歩から帰ってきたらY君が持っていたので、取り合いになりました。

②   Y君も、複雑な気持ちが表情と態度で表れています。担当の先生たちは、
  お互いに取り 合いの状況を確認し合ったあと、二人の気持ちを代弁します。
  「遊んでいたのに悔しかったね」

③   「Y君はH君がこれで先に遊んでいたの、知らなかったんだよ。
  それでH君に取られたと思って、怒っちゃったんだって。ふたりで話してみる?」

④   車を取られたくなくて、部屋の隅っこに逃げ出したH君。Y君を促して、
  「どうしてほしいか、H君に話してみようか?」
  先生たちは決して、「どちらが悪い」「謝ろうね」という言い方はしません。

⑤   結局、この時は二人とも気持ちを伝え合わず、Y君は車を返してもらえませんでした。
  そのモヤモヤした気持ちを解消するかのように、Y君は黙々とデッキの掃除を始めまし
  た。

⑥   Y君が他の気持ちを移そうとしているのを見て、二人の先生は
  「少し、落ち着いたみたいなので、今回はこれでいいことにしましょう」と
  話し合いました。

⑦   H君もその後別の遊びをし、自分の気持ちをなだめているようでした。


人によってはこの対応に対して、「お互いモヤモヤした気持ちのままで、なんで解決しないの?」と思う方もいるかもしれません。

でも、この場面を対応した保育士が大切にしたことは

「“謝ること”でなく”自分の気持ちの収め方“を学んでほしかったということ」です。

※自分の気持ちの収め方…レジリエンス力を身に付ける

レジリエンスとは?=困難や脅威に直面している状況に対し「うまく適応しながら成長する能力」を意味します。

けんかのシーンでは「謝る=解決」と思われがちです。もちろん、状況によっては「謝る」ことも大切です。しかし、この対応をした保育士たちは、口先だけの「ごめんね」よりも、その時の『心』をどうコントロールするのかが大切だと考えていました。きっとこのような判断をするまでには、個々の性格、これまでの過程、いろんな状況を把握した上で“今回は”このような対応をしたのだと思います。

保育をする上で大切にしていることは“今、何を学んでほしいのか”ということです。

特に“心の成長”は目で見えません。この場面では、自分の気持ちを上手にコントロールしなだめることが出来た成長の場面でした。その姿を見て、あえて再度話し合う機会を持ちませんでした。

2歳児は自我の芽生えの時期であり、状況によっては自分の要求が伝わらない経験も

子どもの成長にとっては大切な経験です。

自分の気持ちの伝え方も知らせていますが、全てが自分の思い通りには

いかないこともあります。その時に“自分の気持ちに折り合いをつける”ことが

出来るのか?そのことが、今後大きくなった時の人とのコミュニケーションに

も繋がっていきます。

目に見えないからこそ見落としがちな、この“心の成長”

大切に育てていきたいものです。

                     (宝田)